劇団桃唄309「三つの頭と一本の腕」@こまばアゴラ劇場

(あらすじ―フライヤーより)
民話や地方の習俗を収集研究するアマチュアのグループ。
怪死した仲間の足取りを追うなかで、因習、民話、伝承、
そして律令国家成立の頃にまで遡る確執の世界に巻き込まれていく。
東京、そして福島県の旧家を舞台に繰り広げられる、懐かしく、暖かい、闇。

(感想)
舞台を拝見してしてまず驚いたのが、その戯曲のテキスト量の多さと、それに比例する微細に作りこまれた詳細な設定。この作品のメインになるのは福島県のとある集落なのですが、その場所の地理、歴史、民俗、風習まで、良くもまあここまでという位良くつくりこまれています。その豊富なテキストを下敷きにして、冒頭から目まぐるしく場面やシーンを変換させていくのですが、断片のシーンが多いにも関わらず、最低限の道具と会話や動きの変化で、スッと次のシーンに変わっていく自然さは、さすがキャリアからくる安定感があります。後日談という形を取って、語り手に当たる登場人物の語りと、彼の回想シーンとを組み合わせていく脚本作りも上手さを感じ、好感が持てます。ただ、舞台の前半は断片のつぎはぎのようなシーンが多かったり、この作品の背景や人間関係の説明に費やされる部分が占めるウエートが高かったせいもあって、私個人は観ていてやや消化不良を起こした部分も。詳細な設定を作り上げて、そのかなりの部分を作品に反映させたのは立派だと思いますが、駆け足のような急展開が多いために、説明的なセリフが多い割には、肝心のその説明が理解しきれないうちに舞台が先に進んでしまった印象をうけました。場面展開の多さを演技や観客の想像力でカバーするにも限度があり、この劇団独自のISIS(「俳優が支えていないと倒れてしまう舞台装置」システム)のような、舞台上の景色を見せる装置がこの公演では必要だったのではないかと思います。
ただ、後半がしりあがりに面白くなっていったのは、詰め込んだ断片の数々が、パズルのように一つずつあるべき場所に収まって、一つの物語を形作るからというということもありますし、これ以上テンポを落として上演すると2時間半近い作品になってしまうという事実もあります。断片のシーンの詰め込み具合が、作品の良いところにも悪いところにもなっているので、あとは観る側の好みの問題になってはくるのでしょうが、私自身は下手なミステリー小説よりも緻密にできていて、よくできた作品だったと思います。
この作品、エンタメとしても充分に面白かったのですが、それだけでなく社会派として根っ子の深い問題もいくつか取り上げられていて、それで作品に一本通しています。個人的に気になったのが、過去の習俗や風習を守ろうとするとその集落がジリジリと滅んでいく、かと言ってそれを変えると、その共同体そのものが崩壊してしまうという二律背反は、今の時代の地方と東京の問題を反映しており、かなり根の深いテーマを扱っているように感じました。
もうちょっと観やすくして欲しかったと感じる部分こそ少しありましたが、いろいろな意味で見応えのあった公演です。