世田谷パブリックシアター10周年記念公演「審判」@シアタートラム

日曜日に行われた公演に行ってきました。この公演、カフカの長編小説「審判」「アメリカ」の2作交互上演で、私は来週の文芸漫談とセットで見ようと思い、「審判」の方を観劇。考えてみたら小説、舞台、トークと短期間全く同じ作品で異なる表現方法で3度も触れ合うことになるのかと、さほどカフカに愛着もない私はちょっとめげ気味で行ってきました。
その結果、上演時間は休憩を挟んで3時間15分。作品を通して(特に休憩後)、充分すぎる見ごたえはあったのですが、いかんせん時間が長すぎたというのが正直な感想。観終わった後に精根尽き果てて、ぐったりしました。休みの日の日中でホントに良かったと思います。

(小説のあらすじ−面倒だったので、公演ブログの文芸漫談のページから引用しています)
プラハの銀行の支配人ヨーゼフ・Kは30歳の誕生日の朝、突然逮捕される。
Kは無罪を主張するが、訴訟の理由を誰に聞いても何ひとつわからず、
有効な解決法は次々と絶たれていく。
逮捕から1年経ったある夜、進展を見せない裁判の仕組みにすっかり疲弊した
Kのもとに2人の紳士がやってくる・・・

作品全体の印象としては、作・演出の松本修さん独自の脚色こそありますが、カフカの作品の細かい所まで、できるだけ漏らすことなく忠実に戯曲化しているなと感じます。それによってこの作品の主人公ヨーゼフ・Kが知らず知らずに抜け出せない破局の坂道を転がり落ちてゆくさまが克明に描かれていて、小説を読んでいなくてもこの舞台を観ればどんな作品なのか、細かい部分までほぼわかるのではないでしょうか。
この作品、小説は会話のやり取りそのものはリアルで戯曲にすると面白い反面、場面展開が多い上に、それ以外の部分でわかりにくく像がイメージしにくいシーンがあり、それをどうやって舞台化していくのかがとても難しいという、何とも厄介な作品だと思います。今回の舞台ではその難題が上手く解決されていますが、その際に効果的だったのが、キャストと道具と音楽の使い方。キャストについてはヨーゼフ・K役の笠木誠さんだけを固定して、あとはその時々に応じて、残りの役者さんが複数の役を演じるという設定。年令・性別・体の使い方がそれぞれ異なった役者さんを適材適所で起用することによって、ヨーゼフの周辺に表れるさまざまな人物を多彩に作り上げています。
この作品は小説の場面展開の多さをそのまま舞台に生かしているので、場の展開がやたら多かったのですが、それをスピーディーに行えたのが道具の工夫。机やベッドや椅子などの家具や舞台装置の数々を、出演する役者さんが舞台の登場時に運べるサイズにしたり、複数のシーンで同じ道具を活用することにより、最低限の作業で効率良く次のシーンに移行できていたのは、演出面での工夫の勝利。場面展開中も飽きることがなかったのは、合間に入れた音楽が効果的で良かったというのも大きかったと思います。
この作品を観ている途中にとても強く感じたのが、作り手のものすごい辛抱強さ。松本さんも役者さん達も、話をはしょって先に進みたいとか、シーンをサラッと流したいという誘惑がものすごく強かったと思います。それを耐えて、最後まで抜くことなく作ったおかげで、一本強い芯が入ったとても骨っぽい作品に仕上がったと思います。ただ、難をあげると作り手の辛抱強い分だけ、観る側にもその分の辛抱強さを強いてしまう点。見ごたえがある作品には仕上がっていますが、その代わり気楽に作品に入り込ませてくれない取っ付きにくさを生み出しており、作品のクオリティだけでなく、もうちょっと観る人のことを考えた作品作りをして欲しかったように感じました。
がっしりとした作品が観たいという方、カフカの小説のファンという方にはおススメできる作品かと思います。ただ何であれ、これから観に行かれる方は、それなりの覚悟を持ってできるだけいいコンディションで観に行かれた方がいいかと思います。