ONEOR8「ゼブラ」@THEATER/TOPS

(フライヤーより)
葬式の時、いつも考えることがある。
部屋を囲った白黒の幕が、シマウマを連想させるのだ。
でっかいシマウマの横で自分がお焼香をしてると思ったら、
なんだかおかしくてたまらなくなる。
参列者は皆ゼブラカラーの服を着て、シマウマ様を
崇めているようにも見える。
亡くなった方もきっと、この大きすぎるシマウマに乗って
天国へと旅立つのだろう。
それにしてもどうやってシマウマに乗ったのだろう。
きっと脚立をつかったに違いない。
そんなことを考えながら、私は泣かないようにしています。

前回公演の「コルトガバメンツ」でご招待いただいたこともあって、今回の公演は時間の許す限り行こうと思っていたのですが、このフライヤーの文章がとても気に入ってしまい、何がなんでも行かないという気持ちにさせられたONEOR8の再演。葬式の黒白の幕をシマウマに見立てていくあたりも面白いのですが、普通の人じゃ絶対出てこないなと思うのが、最後の一文。流れそのものはフッと笑わせるのに、最後ですごくしんみりとした感じになってしまいます。

最初に今回の舞台と直接は関係のないことを書いたのは、「今回、どんな舞台だった」と人に聞かれたら、自分だったら「まさにこの文章のような舞台だった」と答えるからです。

夫に逃げられてから女で一つで四人姉妹を育ててきた母親。そんな中の良い姉妹は母親の愛を受け成長し、やがて家庭を持つものでてくる。けど、そんな母親も体を壊してしまい、や入院中に突然ボケてしまう。
更に、それと前後して長女の夫が浮気したり、次女が婚約したり、四女が妊娠したりして・・・。

観る側は肩の力を抜いて観れますが、作り手の側は脚本・演出・演技全て気を抜くことなくものすごく丁寧に作られた作品。丁寧すぎるあまり、時にはそれがじれったいとさえ感じる場面さえありましたが、細部までよく作りこまれています。特に上手いなと思ったのが時間軸の使い方。母の病気から葬式のシーンまでの時間経過をメインの流れにして、舞台上をゆったり流れる時間の中に子供のころからの回想シーンを巧妙に挟み込んでいきます。これが作品に緩急をつけているのと同時に、母親や姉妹の人物像や、関係を上手く膨らませる効果を生んでいて、作品に奥行きと厚みを与えてくれてます。ある人の歩んできた人生が、その人の人となりを言葉以上に雄弁に語ってくれることを良く知っている人達だなと、ホントに思います。
そうやって膨らませた四姉妹と登場シーンは少ないのですが作品の中心に位置する母親を軸に、今回男性陣はフォロー役に徹してした感。少なくても私の観た作品では、田村孝裕さんの描く登場人物は男性より女性の方が魅力的ですので、女性が前面に出るほうがいいのかもしれません。四姉妹役の女優さんはそれぞれ皆さん魅力的。特に良かったのが長女役のラッパ屋の弘中麻紀さん。しっかりした姉と夫の浮気に振り回されながらも強い妻の姿をとても繊細に演じています。四姉妹の中ではメイン役ともいえる堅物で男性不信の三女役の今井千恵さんはとてもいい役なのですが、一方でものすごく難しい役。良くがんばっているとは思いますが、役柄は頑なだけど演技ではそれほど硬さが求められていないという微妙な部分が演じれたという部分まではいかなかったように感じました。
それととても上手いなと感じたのが間合いの上手さ。役者さん同志の間、セリフの間隔、観客との距離の取り方、どれもが全て絶妙でした。例えば、柿が嫌いな葬儀屋の柿沼兄弟が葬儀の打ち合わせの時に柿を出されるシーン。まさか柿をホントに吐くとは思いませんでしたが、それ以外は伏線もあって展開が読めてしまうのですが、それでも笑ってしまうのは、この間合いの取り方の上手さがあったからだろうと思います。
そしてフライヤーの最後の一文に当たるのが、三女の回想シーン。母親も亡くなってしまい、他の三人の姉妹は家を出て行ってしまいひとりぼっちになってしまった家。思い出すのは女手一つで育ててくれた母親と中の良かった姉妹達の思い出。言葉で書いてしまうと安っぽくなってしまうのですが、三女の姿が自分と重ね合わさってしまい、最後は涙がこらえきれなくなりました。シーンだけに限定するなら、このシーンは今年観た舞台の中でももっとも印象に残るもののひとつになりました。
「劇団の代表作にする」という並々ならぬ決意で上演された今回の再演ですが、その意気込みにふさわしい素晴らしい出来でした。時間を超えてスタンダードになりうる作品なので、劇団の活動の節目にまた再演して欲しいです。