ペンギンプルペイルパイルズ「ゆらめき」@吉祥寺シアター

(あらすじ―フライヤーより)
年下の男に交際を申し込まれ、ふった。後日、夫に呼び出されてやって来た若い男はひたすら詫びた後、「あれからすぐに彼女が出来ました」と打ち明ける。妻は夫に殺意を抱く。

(感想)
細かく切り刻まれたような印象をうけるような作品ですが、冒頭で妻役の坂井真紀さんが鎌倉と鳩サブレーについての思いを語るシーンから面白いシーンの連続。最初から楽しませてくれます。ただ最初は、役者さん達の会話がちょっとずつかみ合っていないという印象を受けちょっと首をかしげる部分が多かったです。ただ、作品が進んでいくとこれが、実は脚本家の倉持裕さんによって仕掛けられた罠だということに気づかされ、最初は鳩サブレーの話だったハズがいつの間にか「何でこんな所に?」と言いたくなってしまう場所に放り込まれてしまった気分にさせられます。一見するとセリフも流れも自然なのですが、このちょっとしたセリフのズレの積み重ねで生まれる空間作りは緻密で、そしてとても巧妙です。
一見普通のやり取りが少しずつずれていくのは物語だけでなく、登場人物達も同様です。それを作り出す役者さんの演技は、一人一人の登場人物がそれぞれきちんと輪郭をもった人物像をしっかりと演じていてとても見応えがあります。坂井真紀さんは冷たいけど冷静ではないという、簡単そうでいて難しい役柄を見事に演じきっています。坂井さんの場合、本音を言うと近くで演技を観れたという時点で、私的には大方良かったのですけど・・・。
私の好きなぼくもとさんはアフタートークでご本人も言っていた通り長台詞に苦労したこともあり、今回はちょっと苦戦気味の印象。一方で、抜群に良かったのが、ふられた若い男の友人・朝比奈役の小林高鹿さん。全員が空振り気味に動く中、一人冷静だけど、実は一番怖いという男が見事な位のハマリ役。倉持さんがアフタートークで言っていた通り、物語通り確かに本当に冬眠しても全くおかしくないという妙な説得力が、役以外の部分からも感じてられてしまいます。
かみ合わないでとんでもない方向に暴走してしまったように見えて、最後はまるでひと周りしたかのように戻っていってしまったと思っていたら、更に予想外の展開が待ち受けるラストシーンも展開同様とても見事です。まるで、一周してゴールテープを切ったと思ったら、そのまま見えないところまで走り抜けてしまったような気分になりました。
全体的に流れがとても面白い作品で、背後に怖さを抱えながらも基本的にはリラックスして観れる作風だったと思います。ただ、倉持さんの作品全体の傾向なのでしょうけど、予測しないところで不意打ちのように、インパクトのある展開や演技やセリフがあるので、最後まで気を抜くことができませんでした。それは裏を返すと、それだけ最後まで楽しく集中させてくれた作品だったということでしょう。