ピチチ5「吐くな!飲み込め!蘇れ!」@駅前劇場

オムニバス風の作品が4本で1時間半という形式は、私が前回に行った公演「おさびしもの」と同様なのですが、作風はちょっと変わった印象を受けました。笑いの要素は相変わらずなのですが、今回は作品全体に漂う哀愁というか、枯れた感じのする作品が多かったように感じます。
ただ、登場する人間のダメさ加減と、彼等への容赦のなさい言葉の数々は相変わらず。世代的に彼等と近く、程度の差こそあれ同じダメ人間だと思っている自分にとって、劇中の言葉の数々はとても他人事とは思えず、今までの公演以上に私の心の奥底にグサグサと突き刺さります。
個人的には、観に行ってこれだけ身につまされる思いをさせられる公演というのは他にないんじゃないかと思いますが、けど不思議なのが観終わった後に不思議な位すがすがしい気分になれることです。それは、ユーモアのセンスが抜群に素晴らしいのはもちろんなのですが、それ以上に福原さん達の登場人物達に対する視線の高さがいつも同じだからなのだと思います。だから、作品の中に人を見下したような陰険さがないので、深く共感しながらもカラッと笑えてしまう作品が出来上がるのだろうと思います。

(作品ごとのあらすじとものすごく簡単な感想)
○第1話「フォークの神様」
かって瞬間的に一世を風靡したミュージシャン。しかし、今の彼にはそんな栄光の面影は欠片もなく、ステージをやっても来る客は妻の会社の同僚ばかり。
そんな、みじめな2人は、過去の輝きを取り戻そうと奮闘するのだが・・・。

・最後の手段に悪魔に魂を売ろうとしたのに、魂が腐っていて、「悪魔だってどんな魂でも買うってわけじゃないんだ」って、しょっぱなからあるイミこんだけ身も蓋も救いもない話って他にはないんじゃないかって思いました。けど、そう思いながらもついつい大笑いしてしまう作品です。

○第2話「俺よ、さらば」
もてない3人組みの1人に彼女が出来た。ただ彼はあまりにももてなかったので、彼女とどう付き合っていいのかよく分からない。
そこで、他に友達のいない彼は、残りの2人に相談するのだけど・・・。

・同じ設定を微妙に変えて回繰り返してみたり、コメディの王道ともいえる作品。ミラーボールの安っぽい光が、この作品にはこれ以上ないくらい合います。
オチそのものは彼女は助けたハトだったというどういようもないシロモノで、他の劇団がこの設定でやったら、多分相当寒いことになると思うのですが、それを爆笑に変えていくあたり、話の作りも上手いですし、この作品にピタリと合ってしまった役者さん達の演技も大したものでした。

○第3話「2007年、霧中の旅」
下町のねじ工場で、不況の中、何とかしようと必死に奮闘する社長。
ただ、そんな彼の気持ちが社員にはなかなか伝わらず、欠陥商品を作って親会社からクレームがきても反省の欠片もない。
そんな彼の唯一の支えが娘のとし子の存在。
そんな、工場に、かって作業中に右手を切り落とした男がやってくることになって・・・。

・おそらく、この劇団の中では異色作になる作品だと思います。笑いをやや抑え目にして、どん底にいる人間がダメなりにもがいて、苦しんでいるさまを竹井亮介さんが熱演しています。個人的には、こういう哀愁のある下町人情モノのような作品も結構あうんじゃないかと思いますし、劇団の幅を広げていく作品になるんじゃないかと思います。

○第4話「独裁ミー!」
ハンバーガー屋で働く30過ぎの男が2人。彼らの使えなさ加減は生半可なものではなく、高校生のバイトが繰り返し教えた事さえまともにすることが出来ない。
そこで、マネージャーは2人のうち、1人をクビにすることにするのだが・・・。

ダメな人間ほど追い込まれてしまうと、責任を放棄し、何をやるのか他人に全て支持して欲しいと思うものです。さらっと書いていますけど、実は今の社会の問題を鋭く、深くえぐった作品だと思います。
けど、この作品についてはそんな細かい能書きはどうでもいいのかもしれません。とにかく、最後のオマンサタバサさんの上に乗った自転車の塊が突っ込んできたのに「また自転車かよ!」(「おさびしもの」に行かれた方はお分かりだと思います)とツッコミを入れながらもインパクト充分。3作目までやや大仕掛けの笑いが少ないなと感じていただけに、この終わり方にはとても満足しました。