劇団鹿殺し「殺 ROCK ME!」@全労済ホール・スペースゼロ

(あらすじ)
今から100年後の日本。そこは兄を殺して、その妻を奪ったエロド王(中村まこと)の支配する世界。そんな彼の支配に不満を持つ人々は、学生運動やロックバンドのリーダー・イエスマン(山本聡司)のライブに集うことによって、王に対する反抗の意思を表そうとする。
王の一人娘・サロメ(菜月チョビ)は王と近親相姦の関係にあり、それをひた隠しにしたい王は、彼女を城の一室に幽閉する。
その、彼女が囚われの身となった、イエスマンを心酔する預言者・ヨカマン(加藤啓)に恋をしたことから・・・。
(感想)
ワイルドの「サロメ」を下敷きにし、彼等独自の脚色を加えたロックミュージカル風の作品。去年の4月にタイニイアリスでこの作品を題材にした公演があり、今回もその作品とは別の作品という触れ込みはありましたが、最初は去年の公演を思い出すとパスしようと思ってしました。というのも、最初の20分位がものすごいテンションと反比例して、舞台が上滑りしまくって、私を含めた観客が引きまくった、という思い出があったため。ここの所戯曲が上手くなっているのと、客演陣やゲストが豪華だったので、まあ大丈夫だろうとは思って行く事にしました。
その問題の最初の入りの部分については、劇場に役者さん達をウロウロさせてみたり、脚本に大幅に手を加えたり、ゲストを投入したりと、去年の失敗を教訓に作品の入りの部分にかなりのウエートが置かれた作りになっています。私の行った日のゲスト・小林顕一さんの暴走もあって、設定を説明する場面がグチャグチャになり、作品の流れがややわかりにくい部分こそありましたが、作品全体は最初の手直しに代表されるように、随分と観やすく、分かりやすい作品になっており、少なくても今まで私が観た彼等の公演の中では、もっとも多くの人間が受け入れやすくはなっていました。会場も大幅に大きくなってどうかと思ったのですが、まるでタイニイアリスが狭かった、と言わんばかりにありとあらゆる部分が大幅にスケールアップしていて、純粋なエンタメ作品としてはかなり面白かったです。強力な客演陣に支えられたとはいえ、これ位のスペースでも充分に公演が打てる力があることは証明できたと思います。
ただ、この会場だったからこそ気になった点が二点ほどありました。一点は、キャストの使い方。主要な役者さんは上手く配置していると思いますが、それが脇役一人一人にまで上手く行き届いておらず、全ての役者さんを使いこなしきれていなかった点。それほどセリフの多くない役者さん達にも力のある人が揃っていただけに、もしそれを作品に生かすことが出来ていれば、もっといい作品になっていただけに残念です。それともう一点は、客演の役者さん達が多かったせいか、いつもの公演で見られる、ファミリー的結束が生み出す一体感やそれのよって生み出される、無茶なことをやっても力ずくでねじ伏せてゆく力強さが、いつものようには感じられなかったことです。
今回はこの劇団の作品に時折見られる自己満足としか思えない表現が随分と減って良くなったなと感じる一方、以前までの、役者さんの生み出す野放図ともいえる「鹿殺し」らしいともいえる力強さが、ややなくなってしまったように感じます。メンバーの問題も含めて今後どんな方向に向かっていくのか?この公演がちょうどその分岐点にあたるのではないかと思います。