Oi-Scale「ロールシャッハ」@シアター・トラム

(あらすじ)
別々の場所で2件の交通事故が起こった。1件は女性が車の運転中に中年の男をはねたもの。そしてもう1件は今は車椅子での生活を余儀なくされた男が人をはねたもの。
この2件の事件の真相は?そして一体誰のせいなのか?
周囲の人間を巻き込みながら、段々と本当のことが何なのか分からなくなってゆく。
(感想)
断片のシーンが継ぎはぎのように進む作品で、そういったことを差し引いても最初はちょっとギクシャクした感じがして心配でしたが、映像や照明、音楽を駆使して作られた林灰二さんの作品の持つ雰囲気は独特で、作品が進むにつれて楽しく拝見させていただきました。照明の使い方やテーマのせいもあって、どことなく暗くて退廃的なトーンなのですが、それが重くならずスマートなのは、絵作りのセンスが素晴らしいからでしょう。物を遠くに投げたり、ギリギリの動きを要求したり、絵の作り方も含めて動きの部分でリスクの大きな演出のするなという印象。その分ピタリとはまるとカッコ良かったです。
ただ、やや気になったのは、演出プランの問題なのか、役者さん自身の問題なのかは分かりませんが、役者さんの演技の質にバラつきがあるように思えた事。中心にいる役者さん、特に車椅子に乗る加害者の青年役の村田充さんのやや舌足らずな語り口で、大人たちの建前をぶち壊してゆくシニカルな演技が何とも言えずいい雰囲気だっただけに残念です。
ロールシャッハというタイトルの通り、事件の真相や誰が悪者なのか、色々な見方が出来る作品で、仮にもう一度観たら、私自身作品の印象が随分変わってくると思います。観終わった後にいろいろと考えてみたのですが、物語がどうしてもつながらない。虚実がはっきりとしないシーンや、つじつまがあっているように見えて実は作品内で語られていない部分があったり、同じ場面の出来事2つあってどちらが正しいのかはっきりしなかったり、つぎはぎの中にさまざまな仕掛けが施されていて、ロールシャッハテストのようにそのものではないけどそれらしきものを色々と見せてくれます。しかし、そのことは裏を返せば、はっきりとしたそのものではないということ。そのため作品の断片は印象に残っているシーンが多いのですが、作品全体としては印象に残りづらかったように思います。
これはあくまでも個人的な意見なのですが、今回の舞台で取り上げた題材は実は一回性の高い演劇にはそぐわない性質のものではなかったのかという疑問を感じます。例えば、DVD化された映像作品のように、何度でも繰り返し見たり、気になるシーンを巻き戻して見たりできる媒体の方が、より面白い作品になる余地が高いように思います。水準以上の作品で、決して悪くはないのですが、心に残りにくいという題材の性質が、今回はマイナスに転んでしまったように感じます。