こまつ座&シス・カンパニー「ロマンス」@世田谷パブリックシアター

井上ひさしさん脚本、栗山民也さん演出のチェーホフの生涯をユーモラスに描いた音楽劇。井上さんのお噂はかねがね聞いていたので、まずは無事開演になって一安心です。私の座った席は2階の端っこの方だったので、果たしてちゃんと見えるのかちょっとだけ心配だったのですが、思いの他観やすかったです。パブリックシアターの会場の作りもあるのでしょうけど、どの座席からでも比較的観やすく出来ている作品だと思います。
全体的に感じたのは舞台の作りだけでなく、色々な部分でとても分かり易くて見やすいということ。けど、それは作品が浅いからというのではなく、井上さんの操る言葉の巧みさと、それをきちんと整理して見せている栗山さんの演出の上手さがあってのことだろうと思います。おかげで、休憩を含めて2部構成で3時間弱という長時間の作品でしたけど、ほとんどストレスを感じることなく楽しむことができました。
演出の上手さが光っている作品だと思いますが、それほど奇をてらっているという訳ではなく、今回は役者さんの力量への信頼があって、それを引き出そうという方向性が結果的にいい結果に結びついていると思います。
この作品は、メインの配役を特定の役者さんに固定して、あとは目まぐるしく配役を入れ替えていきます。ですから、シーンによっては大竹しのぶさんと松たか子さんの2人が端役という、他の舞台ではありえない何とも贅沢な展開も。もちろん、お2人がメインのシーンもたっぷりあり、特に大竹さんの長セリフのシーンは本当にびっくり。単純に上手いというだけでなく、一瞬のうちに場の空気を自分のものにしてしまい観客をひきつけてゆくあたりは、並みの女優さんがどんなに努力しても絶対に辿り着くことのできない才能というものを感じました。あと、他の男優さん達の演技ももちろん素晴らしかったのですけど、個人的にいいなと思ったのが生瀬勝久さん。目まぐるしく動きながらも、笑いとツボを押さえた演技が、芝居全体にとてもいいテンポを与えてくれていました。
これだけのメンバーが揃えば当然といえば当然なのですけど、井上さんの時には過度とも思えるチェーホフへの愛にあふれた作品で、取っ付きやすいだけでなく深みもある素晴らしい作品だったと思います。それだけに、これからステージを重ねてゆくとまだまだ深化してゆく、仮に再演してもスタンダードとして充分耐えうる、それだけの作品だと思います。