tsumazuki no ishi「犬目線/握り締めて」@ザ・スズナリ

(あらすじ)
心理療法士の町子(原千晶)は夫の浮気が原因で別居している。夫が勝手に住んでいる団地の契約を解除していまい、そこに新居者が越してしまったため、現在1階の管理人室の前の物置に一時的に住んでいる。彼女はそんなやり場のない怒りから小学生の娘に暴力を振るっている。
一方、硬太郎(中村靖日)は少年に性的いたずらをしたことが原因で、刑務所に服役し、最近仮出所してきたばかり。少年しか愛せない男が始めて愛した女性が、よりにもよって出所後にカウンセリングを受けている町子の娘だったことから・・・。
そんな彼等を始めとした公営住宅「猫が洞荘」の住人達と、そこを訪れる人々の様々な愛の姿を描いた物語。
(感想)
やや寝不足気味ということもあって、最初に公演時間が2時間25分ということを聞いた時は、正直最後まで起きていられるだろうかと、ただそれだけがものすごく不安でした。やや年季の入った団地の入り口が舞台で、舞台の上手に管理人室で、下手に部屋やポストやエレベーターというセット。日の光が入って来ない薄暗い場所でずっと演じられているということもあって、途中までこれはやっぱりもたないなと正直思っていました。案の定、上演時間や薄暗いセットのせいもあって観終わった後は、他の作品と比べてかなり疲れました。ただ、その疲れはそのせいだけではなく、最後までそれだけ集中して見入ってしまったからだということとは無関係ではありません。
こんな出来事が現在社会でもし実際にあったとしたらとても肯定できるものではないですし、本当にやりきれないと思います。本当ならそんな登場人物達が描かれているという段階で、そこに出てくる彼等ごと作品を否定してしまうことも出来るとは思います。ただ、この作品に登場する人物をどこか切り捨てる事が出来ず、それどころか愚かだけど愛おしいとさえ感じてしまいます。それは、コミカルな役者さん達の演技や全編そこらじゅうに存在する毒混じりの強烈な笑いの数々の力も大きいですが、彼等の姿が丁寧かつ真摯に描かれているからでしょう。(結局、その真摯さが2時間25分という上演時間につながっていくのですが)普通の舞台でしたら、前半に舞台の背景や登場人物をしっかり描いて、後半に作品の人物の1〜2人位にスポットライトを浴びせて一点突破を図って、上演時間を2時間位に収めていくのでしょうが、この舞台では、中心になる2人の他の周辺の人達も切り捨てることなく、彼等なりの決着をそれぞれ付けるようにしているので、観終わった後に、最後までキチンと1つの作品を観切ったという充実感を深く感じることができました。
役者陣の方も原さん、中村さんを中心に、脇を固める個性的な役者さん達の演技も見所満載。個人的には、猫田直さんと宇鉄菊三さんのお二人の演技には大笑いさせてもらいました。
演技だけでなく、脚本、演出も含めて全体的に、妥協することなく作られたいい公演だったように思います。ここまで妥協することなく作りこめるというのは、ある意味、この劇団の脚本と演出が分担作業だからなのでしょうか。