劇団鹿殺し「僕を愛ちて。」@シアターグリーンBOX in BOX THEATER

(あらすじ)
釧路の湿原の近くに住む、哲太郎、哲次郎の3歳違いの兄弟。彼等が10代の時に、父は行方不明になり、母は沼で首を吊って死んでしまった。それ以来、兄は鶴の世話を口実に社会に出ることを拒み続け、弟は死んだ母の「何にでもなれる」という言葉を支えに、ロッカーとしてビッグになってやろうと仲間とバンドを始めた。
そんな日常を過ごしていたある日、兄がいつもどおり鶴の世話のために母が亡くなった沼に行った時に、一人の女性に出会う。彼女は2人の家で一緒に暮らすことになるのだった。
(感想)
鹿殺しの公演は前回の番外公演を含めて3度目になるのですが、個人的はこの公演が1番面白かったです。過去2回の公演はパワフルさに魅了されながらも、どこか見ていられなかったり、危なっかしくて仕方ない部分が多々あって、パフォーマンス集団としては素晴らしいけど、劇団としてはどうなんだろうか、と若干疑問に感じてもいたのですけど、今回の公演では比較的最後まで楽しく観きれてしまいました。内輪ウケギリギリのマニアックな笑いの数々やシモネタの多さは相変わらずで、自分がテンションに慣れてしまった部分も大きいのかもしれないという気もしないでもないのですが・・・。
ただ、自分なりに面白かった理由を少しだけ考えてみると、歌やダンスをかなり抑えたり、奈落を使った演出を多用した番外公演の「山犬」の上演で培ったノウハウがいい意味で生きていたのが大きかったように感じます。そこでパフォーマンスに頼らずに1本作品を作りきったことによって、安易にそこに頼らない作品が出来てきたように感じられます。とは言ってもストーリーの要やつなぎや脈絡のないところ問わず随所に出てくる歌やダンスが彼等の1つの「ウリ」であり、馬鹿馬鹿しくもパワフルでした。
それとあともうひとつ感じたのが良くも悪くもこの劇団のキーマンである山本聡司さんのキャスティングがピタリとはまったのが大きかったように感じます。黙っていれば抜群の存在感と身体能力の持ち主にも関わらず、喋ってしまうとただの好青年になってしまうという稀有のキャラクター。その強みを最大限に生かした配役だったように感じます。今後の公演ではアフレコ意外にはほとんどセリフのない配役が多くなってしまうのでしょうか?
「夕鶴」をモチーフにした作品で、基本的にはもうちょっとストーリーにひねりが欲しい部分もありますけど、根っこにある、ありとあらゆることを逃避の理由にして社会に出たがらない男の話という部分はしっかり描けていました。見た目の軽いノリとは裏腹の、彼等の演劇に対するマジメさというのがとても感じられた公演でした。