阿佐ヶ谷スパイダース「イヌの日」@本多劇場

(あらすじ)
それは豪邸に住む、息子の愛し方の分からない母親と、その母親を誰よりも憎む息子の物語。どこまでも自分勝手な男<中津〉(伊達暁)はろくに仕事もせずに、だらだらとした日常を過ごし、その母親、和子(美保純)は男をとっかえひっかえし、時には息子の友人まで自分の部屋に連れ込む。
そんな日常を過ごしていたある日、<中津>は友人の広瀬(内田滋)に自分がしばらく家を留守にすること、その間ある人間の世話をするように頼まれる。彼が世話を頼まれた人間は、<中津>の話しによるともともと防空壕だった地下室に小学校の時から17年間監禁していた男女だという。そんないかれきった話に不信感と嫌悪感を抱きながらも、報酬が100万ということもあり、広瀬はなかば強引に引き受けてしまうことに。
「彼等4人にあまり関わらない事」、「他人には絶対に言わない事」を強く約束させられ、監禁された4人の世話をすることになった広瀬。だが、そのことが事態をより救いのない方向へと向かうきっかけになるのだった。
(感想)
この作品の欠点をあげつらうことは簡単だと思います。正直、最初の内はあまり印象が良くなかったです。ものすごく大雑把ですけど、物語の枠組の1つの見方として、理由(動機)→行動→結果という考え方があるかと思うのですけど、この作品についてはこの枠作りがものすごく粗っぽいという印象を受けました。
初演を観ていないので言い切れない部分があるかと思いますが、例えば再演で登場した、美保純さん演じる<中津>の母親。演技自体はとても素晴らしかったと思いますけど、<中津>の性格が歪んでしまって17年間も人間を監禁してしまって理由付けに使うのはあまりに安易かなあと思います。これだけでなく、暴力やセックス、監禁といった装置の使い方もシーンも、直線的でどこかの小説やドキュメントではありがちなもので、少なくてもそれだけでは作り手の期待するほどの驚きは作れないんじゃないかと思います。
例えば、この作品をそのまんま小説とかにしたら、ちょっと一読に耐えられない作品になるだろうと思います。ただ、脚本を書いた長塚さん自身、作品としての緻密さとか物語を見せようという部分をそれ程重要視していないように感じるのです。その証拠に、脚本そのものに気になる部分が多々あったとしても、脚本と役者さんとの両方にものすごくパワーがあって、途中から舞台に釘付けになってしまいました。それが共感であれ、嫌悪であれ、観るものの感情をここまで強烈に揺さぶる舞台というのはなかなかお目に掛かれないと思います。一人一人、全員がそれぞれ強烈な個性と時には狂的ともいえる熱を持っていました。特に中津役の伊達さんと、一見マジメで堅いけど狂気なまでに現実逃避しようとして、自分から監禁された人間達と仲間になってしまう宮本役を演じた八嶋智人さんの演技が印象に残っています。
最後の最後で中津が監禁している場所からいなくなり、監禁された男女が外に出られるシーンがあり、彼等は外に出られるにも関わらず、宮本とともにその場所に残る事を選びます。その救いようのないシーンが、逆に明るく描かれていてものすごく切なかったのですけど、同時に彼等が外に出る術を作り手自身が見つけることが出来なかったのではないだろうかとも思いました。それが、防空壕の中と外という2つの世界に果たしてどれほどの違いがあるのかという、強烈な問いかけのように感じましたし、その問いに対して肯定的な答えを出し切れない悩みの深さのようなものを感じました。
私自身、シーンによっては「いや〜な」という気分を通り過ぎて胸クソ悪くなってしまうシーンさえありましたけど、それでも目の前で演じられていることから目を離すことは出来ませんでしたし、作品の中に出てくる彼等に強烈に惹き付けられるものがありました。