THE SHAMPOO HAT「津田沼」@ザ・スズナリ

日曜日に行った公演の感想になります。赤堀雅秋さんの演出作品やドラマリーディングが面白かったので、自分の劇団では一体どんなことをやっているのか、興味があって観に行くことにしました。
(あらすじ)
「蚊の鳴くような、金属が鳴るような、不快な音がかすかにする」
団地に住んでいる男から、そんな通報を受けて、原因を調査するためにやって来た、管理業者の男と団地の自治会の副会長。そこにたまたま、男の高校時代の友人が彼を訊ねてやって来た。
そんな2人が想い出すのは、10年前、高校生の頃にこの場所で起こった、どうしようもなく救いようのない出来事だった。
そのことを想い出し、本当なら旧交を温めるはずが、どこかぎこちなく言葉がかみあわなくなってしまう2人だった。
(感想)
妙にリアルで生活臭を感じる団地の1セット。スズナリの舞台にしては少し狭いんで、何か仕掛けがあるのだろうかと思っていたら、上演前には分からなかった、隣の部屋や、台所や玄関、果てはベランダまで、作りこまれているのにはびっくりしました。舞台から見える部分もそうなのですけど、ちらっとしか見えなかったり、全く見えない場所で行われる情景までリアルに連想させてしまうセットや演出は凄いのひとことです。
そんな一室で繰り広げられるのは10年前に行われたできごとと、現在とを交互に往来する一場劇です。主人公や友人達が、同じ高校の先輩の不良に虫けら扱いされ、さらにその不良が、知り合いのその筋の男にいたぶられる図式は、観ていて救いようのない痛々しさを感じますが、そこに、上手く皮肉や毒の混じった適度な笑いを入れていくことによって喜劇的な要素も入った舞台になっています。本当なら逃げ場になるはずの自分の家で起こる出来事なので、逃げ場もなく、ただ受け入れるしかないという主人公には何ともやりきれないものを感じます。それにしても、この劇団の役者さん達が演じる怖いお兄さん達は妙な位ハマっています。強面なルックスを持っていらっしゃる方が多いというのもあるのでしょうけど、そのハマリっぷりには、ひょっとしたら若い頃の自分たちの地の姿がでてしまったのではないか、と一瞬思ってしまったくらいです。
舞台を観終わった後にこびりついて離れなかったのは、強面のお兄さん方の演技も勿論なのですけど、舞台上で感じた音や臭いといった視覚以外の部分です。こういった感覚的なイメージをリアルに連想されるあたりは、演出の赤堀さんの優れたセンスを感じてしまいます。例えば、水を流さないトイレとか、きんもくせいの香りとか、タバコの煙とか、実際に臭いがするわけではないのですけど嗅覚を刺激するセリフや道具立てや役者さん達の演技が説得力がありました。
全体的に芝居や物語のディティ―ルの部分は作りこまれていてものすごく面白かったのですけど、ちょっとだけ不満だったのは、物語の着地点の部分です。10年前と現在とを重ね合わせ、今そこにいる主人公と友人が夢なのか現実なのかどちらともつかない形で舞台は終ります。劇中で主人公は友人にたびたび「お前の夢は?」と聞かれて、「10年後に答えてやるよ」という伏線を張った上でのこの結末はテクニック的にはとても上手いエンディングだと思います。ただ、個人的には、ただそこで出来事が起こったというだけではなく、登場人物達に対してとことん正面から向かいあって、どんな結論でもいいので何らかの形でケリをつけて欲しかったように感じました。もしかしたら最後の部分に脚本家の赤堀さんなりの現実や過去といったものに対する肯定的なメッセージを発信しているのかもしれませんけど、何か人の人生に立ち入るだけ立ち入って、中途半端なところでサヨナラしましたといったやり逃げ感があり、個人的には観終わった後に少しフラストレーションを感じました。
ただ、見方を変えると、この辺はいいか悪いかの問題ではなく、純粋に作品に対する好みの問題だと思いますし、そのフラストレーションから、いろいろなことを考えるきっかけにはなっていくので、これはこれでありなのかなとも思います。