ピチチ5「おさびしもの」@駅前劇場

実は、最初は全く観に行こうと思わなかったのですけど、8月の親族代表の公演で、福原充則さんが脚本を書いたコントの出来が素晴らしかったので急遽予定に組み込んでみました。
今回の公演では5本のコントを上演したのですけど、どれも基本的にはとっても馬鹿馬鹿しい話しなのですけど、どこか身に積まされるものを感じてしまったのは、このコントに出てくるダメ人間と自分とを少し重ね合わせてしまっていたからかもしれません。そんなダメ人間がかもし出す雰囲気にどこか切なさや哀愁を感じながらも、最後の最後には大笑いさせてもらいました。登場人物に対して変な部分に執拗ともいえる愛情やこだわりを持ちながら、ここぞという所で見も蓋もない位容赦なく切り捨て突き放す所に、福原さんのユニークな感性を感じましたし、笑わせてもらいました。もしかしたら、この劇団のコントのネタのベースになる部分というのは、福原さん自身の実体験に基づいたものであり、それだからこそのダメな人間に対する屈折した愛憎につながっていくのかもしれません。全体的に見たらかなり面白かったのですけど、ネタや仕掛けが抜群に良かっただけに、話しの部分にもう一工夫あればもっと笑いが取れたのになと感じてしまった部分はありますけど、そこまで言ったら贅沢過ぎるでしょう。

・第一話「oh!よしこ」
男が女を呼び出し、告白しようとする話し。男は女のことが好きなのだが、女は男のことが大嫌いなので、普通だったらフラれて終わりのはずなのに、あきらめきれない男はしつこく食い下がる。

男が女にフラれるという男にとっては身も蓋もない話しを、更に身も蓋もなくなってしまっています。2人の横にいる妙に統率の取れた男達の一団がシュールな笑いを巻き起こします。男の見苦しさと、その身勝手で馬鹿馬鹿しい言い分がなんとも言えません。

・「俺の好きと言う気持ちとおんなじくらい、お前の嫌いという気持ちをぶつけてこないと俺は納得できないんだよ」(多分こんな感じ)と言う男のセリフには、どうしようもない理不尽さはもちろん、変な説得力があり爆笑でした

・第二話「隻腕くん」
会社帰りに風俗に寄ろうとする課長とその部下2人。部下の1人は帰ろうとするが、本当は2人と一緒に行きたくて仕方ないので引き止めて欲しいらしい。風俗に行く、行かないとやり取りしていくうちに、風俗に行く事に虚しさを感じてしまった課長は、風俗通いを断つために、自分の陰毛を1本残らず引き抜こうとする。
そしたら、課長は陰毛の呪いで大変なことになるし、部下の右手が勝手にしゃべりだすしで、舞台は大変なことに…。

・男の性と欲望について、といえば少しは響きがいいのかもしれませんけど、話の中身はひたすら馬鹿な男達の話です。陰毛の話しとか、喋りだす隻腕くんとか、なんでこんな馬鹿なことを思いつくのか不思議で仕方ありません。そんな馬鹿な男達に、切なさや共感を感じてしまったのは、程度の差こそあれ自分も彼等同様愚かな人間だからでしょう。なし崩し的にフェイドアウトしていくラストにちょっと消化不良さを感じましたけど、アイディアそのものはとても面白かったです。
ただ、このシモネタだらけのコントを観て大ウケしている若い女の子達を見ていて、日本の将来がちょっとだけ心配になってしまったのは私だけでしょうか?

・第三話「魚の生徒」
同じクラスの女子生徒が亡くなってしまったため、通夜の誘導にかりだされた同級生の男子生徒達。普段からクラスで除け者になっている彼等は、死んだ彼女とほとんど口を利いたことがなく、僅かな接点といえば、学園祭の舞台で一緒だった事くらい。
そんな彼等は、他の生徒からは当然の如く見捨てられ、誰も彼等のことを気にかけることはない。
それをいいことにサボろうとしていると、間の悪い事に担任の教師がやってくる。普段から理不尽に暴力を振る、嫌われものの教師は、何故かいつも以上にピリピリとしていて生徒達に当り散らすのだった。

・学生のころ同級生の家族の葬式とかに行くと、不謹慎だとは思いながらその非日常の雰囲気に、何だかイベントのような感覚になってしまい、どこか浮き足立った気分になってしまう、そんな経験を思い出してしまった一遍です。ちょっと懐かしくなっただけでなく、随所にさまざまな仕掛けのある作品で、ラストシーンはちょっと切なかったです。

・第四話「牛丼太郎高円寺店」
牛丼太郎でバイトする男達、そこに客としてやってくる常連達、店に恨みを抱くもの。彼等が牛丼太郎にやって来る理由はさまざまだけど、そこにはやってくる人間だけドラマがある。そんなお馬鹿な人達のちょっと群像劇っぽい作品。

牛丼太郎で三食済ましている男の「俺だって毎日、吉野家で牛丼が食べられる身分になりたい」っていうくだりは、登場人物の心の叫びがリアルすぎるくらいに描かれていて、思わず笑ってしまいました。タイトルの牛丼太郎といい、こういう固有名詞の使い方というのは、説得力が強烈な半面、表現がチープで軽くなってしまうものです。ただ、福原さんの場合、その固有名詞を上手く利用して、あえてポップな作りをしていくあたりは、本当に上手いコントの作り方をするなあって思いました。
最後は伏線を張ってはいるものの、まさか本当にやるとは思わなかった、自動車を牛丼屋に突っ込ませるという大仕掛けで終わります。正直、グダグダになって収拾が着かなくなったのを力ワザでごまかした感はするのですけど、こんなごまかし方なら全然許されます。

・第五話「世界をもっと複雑に」
舞台は、第一話の続き。ふられてもふられてもしつこく言い寄り続ける男。しかし、今回は、女も負けてはいない。付きまとわれている男に強烈な逆襲を仕掛け、男を完膚なきまでに叩きのめすのだった。

・最初のネタを最後に持ってきてステージをまとめ切ることといい、最後の観客の不意を突いた大仕掛けといい、この劇団の旺盛なサービス精神を強く感じた作品です。この作品のおかげで、観終わった後にいい余韻を感じることができました。