七里ガ浜オールスターズ「双魚」@OFF・OFFシアター

9日の最終日に行った公演の感想になります。小さな会場の中超満員で、少し窮屈な思いこそしましたが、値段(前売り2500円)といい、公演のレベルといい、このキャパで行われる劇団の公演とは思えない位ハイレベルでとても満足しました。
公演の前に今回の出演者全員で、来年上演予定の次回公演の予告編をやっていましたけど、時期が秋か冬になるという以外は、会場も内容もキャストも決まっていないということで、あくまでもキャストの顔見せ兼役者さんのウォーミングアップ兼サービスといった所でしょうか。
今回の公演は日替わりでゲストの方が登場したのですけど、私の行った回は、reset-Nの久保田芳之さんでした。ただの顔見せゲストかと思ったら、結構重要な役での登場に、おいしいなと思いながらももっと観たかったなという物足りなさも…。
公演が終った後に、思わず前回公演のDVDを買ってしまったので、あとでじっくり見ようかな思っています。
(あらすじ)
舞台は未来の日本。そこではすでに今のような人類は存在せず、昼も夜も生活できるが体の弱い少数派の民・クーリオと、闇の中でしか生きられない替わりに老いや病気を克服した肉体を手に入れた多数派の種族・モンドの2種類の民が暮らしている。
1人のモンドを殺した事から長い間迫害され続けたあるモンドの集落の住人達、そこにやって来た光を撮り続けている1人のクーリオの写真家、その集落の住民と関わるモンドの人々。
そんな彼等の関わりを通して描かれる世界の姿。
少数派のクーリオが多数派のモンドに怯えて暮らすことのない、モンドがクーリオのことを理解し差別をしない、そんな日々が訪れることはあるのだろうか?
(感想)
公演の案内にも書かれていました通り、今回の脚本はイキウメの前川知大さんが脚本を担当しています。イキウメの本公演では日常の世界の中に非日常の世界をコツコツと積み上げて全く別の世界を作り上げていくという作り方をしていきますが、今回の公演では最初から作り上げられた世界の中で物語が展開していきます。基本的には人と人との関係をじっくりと描いた作品なのですけど、OFF・OFFシアターという限られた空間の中にも関わらず、登場人物同士のやりとりを通してその世界の背景をきっちり描いたことによって、濃密な人間関係とスケールの大きさと両方を兼ね備えた作品に仕上がっています。そして、その世界をそれぞれの役者さんがきっちり演じきっています。9人(ゲストの久保田さんを含めると10人)の役者さんがいると、普通は、役者さんごとに演技の差や配役による映えたり、ぱっとしなかったりといった部分が出てしまうものなのですけど、それぞれの役者さんが一人一人生きていてとても見応えがありました。役者さんの演技やテンションを高いレベルでまとめたことといい、対面式の舞台という観客に見せるのが難しい形の舞台を選びながらもきっちり見せきったことといい、派手さこそありませんけど、演出を担当した瀧川英次さんのしっかりとした力量を感じました。
物語の世界も強者による弱者の差別や、異文化との共存などといった現代の問題を、SF的な世界になぞらえて作られていて、いろいろなことを考えさせてくれる、奥の深い物語になっています。例えば、劇中の重要なシーンの1つにクーリオの青年とモンドの青年とが出会い、友情を育んでいく場面があります。何気なく言ったことが相手を深く傷つけてしまう所などは、差別の根底にあるお互いの知識や理解の欠如について観ているうちに考えてしまいました。
そして今回の設定で面白いなと思ったのが、クーリオがモンドになることが比較的簡単に出来てしまうこと、モンドの出生率が極端に低いために、クーリオをモンドにして養子にすることが比較的頻繁に行われていくという部分です。差別する側とされる側双方から見たら超えがたいように見える種族の壁が、実は根は大した隔たりがないという部分は、作り手のこの問題に対するメッセージのようなものを感じました。
いい脚本があり、いい役者さんが揃い、それをいい演出でまとめると、みごたえのある舞台にならない訳がない、という見本のような公演でした。瀧川さんは会場の見にくさや狭さをかなり気にしていたようですけど、逆に舞台や役者さんがものすごく近く見える場所でこの公演が観れたというのは、とても贅沢だったと思います。
脚本家の前川さんや、今回出演した役者さんたちの演技を見ていると、何年かしたらこの公演を観れたことをものすごく自慢できるかもしれない、そんな気さえしてしまいます。