庭劇団ペニノ「アンダーグラウンド」@ザ・スズナリ

ストーリーらしいストーリーもなく進行する1時間20分。薄汚れた病室で手術をする看護士たち、その舞台の上手の上の方の仕切られた空間で演奏するジャズ奏者、そしてその舞台と手術を引っかきまわすマメ山田さん。頭の中で考えている分にはどう考えてもつながらない3つの絵が、実際にくっつけてしまうと奇妙な位にしっくりとするのにはびっくりさせられました。
この3つをつなげる理由や必然性については、結局最後まで良く分かりませんでしたし、いわゆる普通の「演劇」とはかけ離れた舞台ですけど、音楽もとても良かったですし、すごく面白いものを観る事ができたなと思います。
ジャス奏者の3人は、演奏している時ももちろんなのですけど、演奏していない時も妙な存在感があり、外科手術をしている絵と組み合わさるととても奇妙な存在感がありました。演奏していない時は、その場でじっとしていたのですけど、舞台上で外科手術をしているシーンの時に楽器やバンドの人間がじっとしている時のシルエットがまるで舞台芸術のオブジェのような感じがしました。今回、あえてジャズバンドを入れたのは、音楽的な効果を狙ったのはもちろんなのでしょうけど、視覚的な面白さというも狙ってのことなのではないでしょうか。
一方、手術室の方は、視覚的な面白さだけでなく、聴覚的な面白さが強調されていて、絵だけではなく、音でもいろいろと楽しませてくれます。手術をしている時のメスやドリルの音、ゴム手袋を叩く音、水のこぼれる音…etc、手術の中でしか聞けない音が強調され、それが看護士のささやくようなほとんど聞き取れないしゃべり声や、ジャズの音楽と絡みあっていき、独特の空間を作りだしていきます。
看護士役の役者さん達は、全員手術着に帽子、そしてマスクとほとんど誰が誰なのか分からない上に、動きがとても少ないですし、ジャズ奏者の方は、演奏してない時はじっとしてないといけないので、舞台にいる人間はものすごくストレスが溜まるだろうなあって思いながら観ていました。ただ、こうやって徹底的に舞台上の個を排除することによって、全体として一つの作品として観た場合の完成度の高さや、バラバラだと違和感のある絵をしっくりとしたものにしているのだろうと思います。
そして、個を排除した舞台上で、唯一個人として強烈な存在感があったのが、マメ山田さんです。公演のチラシだと指揮者(とは言ってもバンドの指揮をするシーンは全くありませんけど)の山田さんが海水パンツ姿で、フィンとシュノーケルをつけて登場したり、最後には患者の腹の中から登場したり、手術している時にバンドの人間を煽ったりなど、舞台のあちこちをかき回します。この山田さんの存在が、舞台のなかで狂言回しの役と同時に、手術シーンとジャズ奏者とのつなぎ役にもなっています。更に、この作品って一歩間違えると、「ただ人の体をオモチャにしてるだけじゃないか」と言われかねないきわどさを持っていますけど、そうならないのも山田さんの存在が大きかったからだと思います。
手術シーンのセットや、小道具、役者さんたちの演技が妙にリアルに作りこまれて芸が細かいと思っていたら、内臓の中から出てくるはずのないものが出てくるのを始めとして、変なところで嘘くさくなってしまう、その絶妙なさじ加減も面白かったです。それによって舞台のリアルさと胡散臭さの両方が増幅されていて、目の前に起こっていることが、作品の持つリアリティを損なうことなく、現実との距離感を作り出すことに成功しています。結構ショッキングなシーンがあったり、考えても理解不能な部分があったにも関わらず、私個人は作品の持つ世界を比較的すんなりと受け入れてしまったのは、そういった理由があったからだろうと思いました。