劇団桃唄309「おやすみ、おじさん」@中野・ザ・ポケット

日曜日に行った公演になります。
(あらすじ)
電車も通っておらず、最寄駅までバスに乗らないといけない、東京の下町。そんな忘れられかけた町で、雑貨屋を経営する母親と2人で暮らす中学生の僕の周囲では、よく不思議なことが起こる。
そんな時、突然おじさんが僕の家にやって来た。おじさんは、時々急に家にやって来て、いつも寝ているかと思ったら、いつの間にかいなくなってしまう。
おじさんは一体何者なのか、母に聞いてみたのだけど、母は「戦士」と答えた後に大笑いするばかりで、ちっともマジメに答えてくれない。
けど、僕は、それが実は本当のことだっていうことを知ることになるのだった。

東京の消えつつある商店街を舞台にした、「僕」とダメな「おじさん」と「町の人たち」と「妖怪のようなもの」たちの物語。
(感想)
東京の下町の失われかけてしまった光景、そんな光景を実際に目の当たりに出来る場所に住んでいるわけではないのに、どこか懐かしい、そんな気持ちになってしまうお芝居です。そんな風景や、そこで生活を営んでいる人と人とのやりとり、こういったものが実に鮮明にかつ生き生きと描かれています。それを可能にしているのが、この劇団独自のシステムともいえるISIS(自立不能舞台装置システム)という仕組みです。言葉で表現するのは何とも難しいのですけど、舞台の周囲にセットが置かれていて、そのセットを場面に応じて役者さんが持って舞台の一部として上がることによって、通常の舞台では考えられない位の多くの絵を作り出すことを可能にしています。可動式のセットを使うお芝居というのは結構ありますけど、セットを役者さんに持たせるという事を前提に、セットの制作そのものから徹底して芝居作りに活用するのは、この劇団くらいなのではないでしょうか。(言い切れるほど、芝居を観ていないので多分という言い方になってしまって申し訳ないのですけど)
物語の方は、このISISを徹底的に使うことによって作られる多彩な絵をフルに使って作られる、断片的で細切れになったストーリーを細かくつなげることによってテンポ良く進んでいきます。その中で描かれていく町の住人達のやり取りはものすごく丁寧に描かれています。その点は好感が持てるのですけど、やり取りが丁寧すぎて、テンポがいい割には筋がいま一つ進んでいかなかったり、断片的なストーリーが多いので全体像がいま一つ鮮明さが感じられなかった部分が、少しもどかしく感じましたけど、その辺は作品の持ち味部分と表裏一体の部分だとも思いますので、仕方ない部分なのかなあとも思います。個人的には、もっとエンターテイメント寄りの作品にした方が、面白くなる作品だと思いますけど…。
この作品の中で、脚本家の長谷基弘さんは、まじないしや妖怪といったものに託して語りたかったことというのは、人や町は変わらざるを得ないし、変化することによって多くのことが便利になるけど、それによって失ってしまうものもたくさん存在することや、目に見えるようになるということによって、多くの「見えなかった」ものを失ってしまうこと、それはどうしようもないことだけど、時にはそういった部分にも目を向けたっていいんじゃないか、ということではないかと思います。
全体的にはそんなに派手さこそなかったのですけど、観終わった後にじわじわと来る公演でした。
ところで公演のチラシによると、この作品は長谷さんが10年書き溜めてきた妖怪についての話の一部にあたるそうですね。作品の世界観がものすごくしっかりしているにも関わらず、登場人物や物語の設定について妙に謎の残ると思っていたら、続編の上演も考えているということ。そういうことだったのかと一人で勝手に納得しました。