経済とH「北限の猿」@明石スタジオ

(あらすじ)
舞台は国立大学の大学院研究室。そこでは類人猿のボノボを短期間で人間に進化させようとする<ネアンデルタール作戦>というプロジェクトが計画されており、そのための実験や観察が日々繰り返されている。
そこには様々な分野の専門家やスタッフ、その他外部の人間が出入りしており、彼等にはそれこそ人の数だけ実にさまざまな感情や思惑があり、彼らの会話を通してそれが少しずつ浮かび上がっていくのだった。
1992年に初演され何回も再演を重ねる平田オリザさんの代表作を、ブラジルのブラジリィー・アン・山田さんが演出した、演劇ユニット「経済とH」の旗揚げ公演。
(感想)
ネアンデルタール作戦>という面白いアイディアが思い浮かんだら、普通はこのアイディアをいかに拡げて面白い物語を作るかという方向に発想が行くと思うのですけど、そこに携わる人間関係を描いていく会話劇に徹することにより、人間と猿(ボノボ)との比較を行い、人間の感情のさまざまな側面を浮かび上がらせています。贅沢というか、ひねくれているというか…。そこにさまざまな立場の人間がいれば、当然相手に対しても好意を感じたり、反発してみたり、妬み、軽蔑、憎悪、無関心……etc、実に多様な感情を抱くことになります。この作品は大学の研究室に定点カメラを置いたような感じで、そこにいろいろな人達が出入りすることで舞台が進行していきます。出入りする人間によって会話の話題が変わっていき、研究室の空気がそのたびに変わっていく部分というのがとても面白かったです。もちろん脚本の面白さというのが大きかったとは思いますけど、微妙な空気の違いを作り出した演出と、それをきっちりと演じた役者さんのしっかりした力量というものを感じました。
ただ、もともとこういうお芝居なのかもしれないのですけど、物語の流れの中で人間関係がきちんと把握できるようになってからは抜群に面白かったのですけど、芝居の冒頭から途中までは、観ていてあまりいい印象を感じませんでした。登場人物の多くが研究室の研究員なのですけど、白衣を着ている意外はちっとも研究員らしさを感じられませんでしたし、その研究員もただの学生なのか、研究員なのか、どんな研究を専門にしているのかが、会話以外に明確な区分けが出来ているようには感じられませんでしたし、一つの研究室で共通の研究をしているのだという雰囲気もあまり感じられませんでした。
ですから、これはあくまでも個人的な感覚なのですけど、舞台の上に1人〜3人くらいいる時にはいい感じなのですけど、多人数になるととたんに面白みが半減していくように感じてしまいました。後半が面白かったのは、人間関係が把握できたという部分の他に、前半と比較して舞台上にいる役者さんが少なかったからという部分もあったのではないでしょうか。一人一人の役者さんは上手いですし、演出の巧みさが光っていたのですけど、それが全体になるとその役者さんの個々が際立たないうえに、逆に煩雑な感じがしてしまったように感じてしまうのです。この辺というのは旗揚げ公演ということで、劇団としてのまとまりや熟成がまだ出来ていない段階だからで、公演を重ねていくと解消されていく部分なのでしょうか。
今回は平田オリザさんの作品を上演していましたけど、次回は来年の2月末から3月頭に小林顕作さん作・演出でオリジナル作品を上演するそうです。今回の公演と小林さんの作品のイメージが全く繋がらず、演劇ビギナーの私には一体どんな作品になるのか全く見当がつきません。今後のこの劇団のどんな方向性に向かうのか、しばらく目が離せません。