演劇集団キャラメルボックス「雨と夢のあとに」@サンシャイン劇場

(あらすじ)
幼い頃に母を亡くし、ジャズべーシストの父・朝晴(岡田達也)と2人で暮らす、小学6年生の少女・雨(福田麻由子)。蝶の収集が趣味の朝晴は、珍しい蝶を追いかけて台湾まで行く。そこで、幻の蝶を捕まえた、と思った瞬間、穴の中に落ちてしまう。
どうなってしまうのだろうかと思っていたら、気が付いたら数日後、朝晴は無事に帰国。心配してした雨と、帰国の報告をしにいった喫茶店で、朝晴は奇妙な経験をする。どうやら、一部の親しい人意外には、彼の姿が見えていないらしいのだ。
実は、朝晴は、すでに穴の中で亡くなっていて、雨を心配するあまり、魂だけが彼女の元に戻って来たのだった。
(感想)
本来、10時間あったドラマを2時間で舞台化し、おまけに主演が、小学生。最近、いろいろと新しいことを試みているキャラメルボックスでも、いくらなんでもこれはチャレンジのし過ぎだろうと思い、観に行く前は「とんでもないものを観せられることにならないだろうか」という不安が先にありました。正直に白状すると、先行予約で思いのほかあっさりチケットが取れてなければ、今回の公演はパスしていたかもしれません。
そうした不安を感じながらの観劇でしたけど、舞台については、自分が心配していたよりはかなり良くできていて、観ていて純粋に面白かったです。
内容的に、かなり詰め込んだこともあり、暗転さえもほとんど使わずに舞台のシーンが目まぐるしく変わっていく演出が多用されていました。それによってまるで映像のようなスピーディーさが出ていて、内容の密度も濃かったように感じました。特に、後半からクライマックスに掛けてのシーンは畳み掛けるようで良くできていました。ただ、2時間ほとんどずっと目まぐるしくシーンが変わっていくので、ゆったりとためて欲しいシーンでは、観ていて急かされているような感じがしました。
主演の福田麻由子さんは、情感たっぷりというところまでは流石にいきませんけど、基本がしっかりとしたいい演技を見せてくれました。観に行く前は、「天才っていってもたかが子役だろう」とタカをくくっていたのですけど、大人達に混じっても存在感を全く失わないあたりは、なるほど、将来がとても楽しみです。
主役の福田麻由子さんが上手く生きたのは、本人の演技ももちろんですけど、脇を固める役者さんが福田さんに無理に合わせようとしないで、その上で彼女の演技を盛り上げていこうという姿勢が徹底されていたからだと思います。特に、父親役の岡田達也さんと、その先輩夫婦役を演じた、久松信義さんと、楠見薫さんの2人の客演の役者さんが良かったです。その2人の息子役を演じた畑中智行さんも、一歩間違えるとただの道化になってしまいかねない役を好演して、上手く客席の笑いを持っていってました。ここ何作かの畑中さんの出演した作品を観ていると、このまま順調に行けば、劇団を背負っていく役者さんに成長するんではないだろうか、そんな感じがします。
全体的に、良くがんばって作っているなあと思った一方、いろいろな部分で生じてしまった無理をクリアするために苦労しながらも、結局は解決しきれなかった部分が生じてしまったという印象がぬぐえませんでした。前述した観ていて急かされているように感じたのもそうですし、内容的に2時間に詰め込むにはどうしても無理があり、そのためにストーリーが強引になったり、うまく消化できなかった所があったように感じました。
作り手サイドから見たら、必然性があってのことでしょうけど、個人的には、そもそも今回の公演でこの演目を選んだことは果たしてベストの選択だったのだろうかと疑問に感じています。この演目でなければ、内容を2時間に強引に詰め込む必要は全くなかったわけですから……。
面白く観させてもらった一方で、福田さんが21時までしか舞台に立てないことも含めて、作り手の側の都合で作った制約に観る側が不自由さを感じるのはどうなのだろうかなあ、という部分に今回は少しだけ釈然としないものを感じました。