シベリア少女鉄道「残酷な神が支配する」@吉祥寺シアター

「語りえることがあっても、沈黙しなくてはならない」
どこかの哲学者の言葉と微妙に似ていますけど、シベ少のオチについては、この言葉がふさわしいかと思います。
一方で「あ〜、この馬鹿馬鹿しさを、そこら中に言いふらしてやりたい」という強い誘惑にも駆られます。これから観る方も結構いるかと思いますので、出来るだけネタバラシにならないように気を付けたいと思います。興味のある方は是非、劇場に。ただ、観終わったあとに強烈な怒りを感じる人がいてもそれは私のせいではありません。
一応ストーリーとしては、大学の構内で起こった身代金誘拐事件と、それと平行して発生した、警察内に仕掛けられたコンピューターウイルス、この2つの事件を巡る、サスペンスタッチの心理戦といった所でしょうか。ストーリーそのものは心理戦にふさわしくそれなりに緻密に出来ているのですけど、間やテンポは悪いですし、セリフを噛みまくったことを始めとして、素人の私が観てもわかる役者さんのミス連発で、途中までは悪い意味でどうなってしまうのだろうかとものすごく心配でした。思わせぶりなセリフや伏線の貼り方で、次のストーリーがどうなるのかという興味はそれなりに引っ張っていくのですけど、ミステリーやサスペンスのドラマや小説で使われるストーリーの引っ張り方とか、盛り上げ方とかを無視してストーリーが進むので、観ていて平板な印象がしました。タメにタメて、ラストシーンで爆発させるという狙いもあって途中までは意図的にのっぺりさせたという部分もあるのかとは思いましたけど、オチに向かっていく流れや伏線に使った気を、少し別の方に回してくれたら、もっといい作品になったのに勿体ないと思いました。
ただ、さんざん引っ張るだけ引っ張って最後に出てきたオチの部分については、自分の笑いのツボに綺麗に入り、最後には大爆笑させてもらいました。基本にはペテンに近い終わらせ方なんですけど、ここまで上手く引っ掛けられるんならかえって痛快ですがすがしい、そんな気分になりました。私自身は始めてだったのですけど、毎回毎回予想を上回るオチを期待されていて、いつもそれの斜め上を行くというのは本当にすごいと感じました。
もう一つすごいと思ったのは、彼等がこの物語を描くのにあえて演劇と言う表現を選んだということでしょう。演劇を成立させるために必要な文脈や約束事を踏まえた上で、それを引っ繰り返してここまで面白くするためには、演劇に対する深い洞察が必要でしょうし、演劇がナマモノだということが良くわかっていないと無理でしょう。例えば、これをTVや映画で見たとしたら、ここまでは面白くなかったはずです。(少なくても私だったらこんな映画見せられたら、暴れますね)演劇で表現したからこその面白さと言えるでしょう。
因みに、この作品のタイトルは萩尾望都さんのコミックと同タイトルですけど、内容的には全く関係がないはずです。(当事者ではないので確信をもって言えませんけど、もし似ている部分があったとしたら、それはただの偶然の一致に過ぎないはずです)
内容的には、萩尾さんのコミックというよりも、むしろ時間制限つきの某有名サスペンスドラマのオマージュなのではないでしょうか。(ドラマをほとんど見ないので多分ですけど)
ただ、このタイトルが全く無意味に付けられたかというとそうではなく、実はそこには深い(?)意味が……。それが分かった瞬間には思わず大笑いしてしまいました。
最初は、心の中で悪態を付きながら観ていたのですけど、最後には作り手の側の、仕掛けられた罠や思惑にまんまとハマってしまいました。