池澤夏樹「マシアス・ギリの失脚」

細かいフィクションの積み重ねが、まるで1つの国の歴史を読んでいるかのようなリアリティをもたらしてくれる1冊。かと思えば、慰霊団の乗ったバスが消失したり、大統領のもとに亡霊がやってきたりといった幻想的なシーンや、南の島の光景や風俗が生き生きと描かれていて、ひとことではとても言い表わせない奥行きを持った作品です。
主人公の大統領、マシアス=ギリをただの強権的な指導者として描かなかったところがこの作品が上手くいった大きな要因のように思います。それによってギリの人間くささが孤独や苦悩とともに描かれいて、被支配者である民衆との対比の構造がより厚み
isbn:4101318158:detail