瀬名秀明「デカルトの密室」

例えば医学の進歩によって人間が不死に限りなく近づいた場合、人間の死に対する枠組みが大きく変わってしまうように、科学の進歩によって生じるパラダイム変換の過程を読むというのもSFの一つの楽しみ方なのではないでしょうか。
前置きで偉そうに書いていますけど、文系人間で忘れたころにSF小説を読むといった程度の私にとって、この本に書かれている内容の全てを理解することはできなかったのですけど、この本を読み終わって自分なりに考えたことが、このパラダイム変換についての事です。
本作では限りなく人間の心を持ったロボットが登場します。人工知能が進歩して限りなく「人間らしく」なった時、そこに心が存在するのか?そもそも心とは何なのか?人間と機械との境界線はどこにあるのか?など、そういった様々な問題が作品のなかに登場します。そこでは哲学の分野で長い間語られてきた「心」の問題の枠組みそのものが揺らぎ、私達に新たな価値観への転換を強います。そして、そうしたロボットが殺人を犯した時、犯人はそのロボットなのか、プログラムを組んだ人間なのか、それとも別の第三者の仕業なのか?本作は最新科学の成果をベースに、そのなかにフィクションを巧みに織り交ぜながら一つの壮大な物語が描かれています。私の理解力不足と物語そのものが様々な要素が複雑に絡み合っているため、正直真相の全てが明らかになってすっきりとしたという感じにはなりませんでしたけど、物語のスケールの大きさにはただただ圧倒されましたし、人工知能というSF小説では比較的取り上げられること多いテーマで、先端の科学知識の成果を物語に落とし込んでいく瀬名さんのストーリーテラーとしての力量とオリジナリティ高さというものを強く感じました。
ISBN:410477801X:DETAIL