桜庭一樹「ブルースカイ」

去年トークショーに行ってから、個人的にもの凄く肩入れしている作家さんなのですけど、この作品については期待が大きかっただけに、正直期待ほどではなかったなあ、というのが一読して真っ先に感じた感想です。この物語は、中世ヨーロッパのドイツ、近未来のシンガポール、ほぼ現在の鹿児島の三ヶ所を舞台にしています。魔女狩りが行われている中世ドイツで祖母とともに生活している少女、コンピューターネットワークのなかで生きる青年、ごく普通に生活していたのにある日とんでもないことにまきこまれる少女。その三つのパートの一つ一つそれぞれはとてもよくできていて面白かったのですが、この一見関係のない三つの物語がつながっていく線というのがやや弱く、そのため最後は唐突に終ってしまったような印象を受けたのが残念でした。三つのパートのなかでも特に中世ヨーロッパについては、当時の時代背景やひとびとの暮らし、更には景色の描写などがよく練りこまれていて面白かったですし、少女の心の描きかたも上手かったので一番面白かったです。文章も上手いですし、もの凄くいろいろな引き出しを持っていそうな感じはする方なので、あとはいい意味でストーリーにはじけた部分がでてくると、ライトノベルのジャンル以外でもブレイクする力を持っていると思います。本作も、作者の力量を考えるともっといいものが書けそうな気がしますけど、全体的にはよくできていて、佳作レベルの水準には充分達していると思います。
ISBN:4150308209:DETAIL