恩田陸「ドミノ」

本書を読む前に「27人と1匹の登場人物が、時にはすれ違い、時には交差しつつ進行するパニックコメディ」という大雑把な内容を最初に聞いた時、以前やった「街」というゲームを連想したのですけど、実際に読んでみたら、その考えはいい意味で裏切られました。
登場人物が増えるに従って、作者が登場人物を書き分ける手間や、場面ごとの人物の交通整理が等比級数的に大変になってしまい、意気込みの割りにストーリーを破綻させてしまう危険性があるのですけど、この作品は登場人物も多く場面の切り替えもめまぐるしいにも関わらず、最後までストーリーをきっちり収斂させているのはさすがのひとことです。どういった人物を、どこの場所に登場させて、誰と誰とをクロスさせるか、といった部分はあるにしろ、アイディア自体は結構どこにでも転がっているようなものだとは思いますけど、実際にこのアイディアで面白い作品を作ろうと思ったら、かなりの労力と構成力と、頭の柔らかさ、更には登場人物たちをきちんと書き分けていく筆力が必要だと思います。
これだけ登場人物がいるので、人物や舞台を把握するのに少してこずりましたけど、それを一度捕まえてしまうと、文章にも物語にもスピード感があるのであとは一気に読むことができました。
作品の幅が広すぎて、作品によって好みが分かれる部分はあるかとは思いますけど、作者の恩田さんは引き出しの多さと、作品ごとのアベレージの高さというのは、現代のエンターテイメント作家の中でも屈指なのではないでしょうか。全ての作品を網羅しているわけではありませんけど、この人の発想の柔軟さにはいつも驚かされます。
ISBN:4043710011:DETAIL