北方謙三「危険な夏」

自宅の壁にペルーの地図を貼り、いつかその地にはばたきたいと夢見ているバイト学生の水野竜一。彼が申し込んだアルバイトの面接で、「金に尻尾を振って集まってくる連中じゃ、勤まりそうもない仕事なんだよ」と深江に言われたことが始まりだった。ただ、トラックでカイロを集める仕事。一見それだけに見える仕事が、実は、深江をかって自分達を追い込んだ巨大企業を追いつめていくための切り札だった。
金にも、権力にも、屈せず自分の信念を貫き通す、そんな強烈な個性を持つ男達の物語を、ストイックな文体で綴っていく。それが北方さんのハードボイルド小説の共通の特徴と魅力だと思います。そして、以前読んだ「ブラディドール」シリーズと決定的に違うのは、この小説が基本的には三人称で書かれているということでしょう。徹底的に一人称の文章で貫く「ブラディドール」シリーズと比較して、登場人物への食い込みかたや、思い入れが若干浅くなる分、ストーリーの組み立て方はこちらの方が、凝っていて、良かったです。個人的には、竜一や、深江もいいのですが、いつもおいしい所ででてくる、この物語の狂言回し役の「老いぼれ犬」高樹刑事がいい味を出していていいですね。私もそうだったのですが、北方さんの場合、作品の量があまりにも膨大すぎて、始めての方はどこから手をつけていいのか、かなり悩むと思います。そういう方には、この作品とか、「ブラディドール」シリーズの第一作目の「さらば、荒野 (角川文庫 (6022))」はおススめです。
ISBN:408749599X:DETAIL