ハイリンド「幽霊はここにいる」@THEATER/TOPS

(あらすじ―公演のパンフレットより)
高価買います、死人の写真

街にばら撒かれた奇妙なビラ。
そしてある男が始めた不思議な商売。
「成仏できずにいる幽霊の身元、集めた写真から突き止めましょう」
混乱する街。なびく民衆。
目に見えないものを巡って右往左往する集団心理をシニカルに描いた安部公房の傑作。
古典演出の気鋭、西沢栄治の彩で、今甦る。

(感想)
安部公房さんの戯曲をやる」
その話しを最初に聞いた時、何か面白そうだ、そう思って今回の公演に伺うことにしたのですが、ただ期待と同時にそんなけったいなシロモノを一体どう料理するのかという不安も同じくらいあったというのが本音です。この戯曲が書かれたのが、1958年ということを考えると、セリフや設定に多かれ少なかれ手を入れてくるのかと予想していたら、脚本そのまんまの馬鹿正直な直球勝負に、まずはびっくり。多分、根がよっぽど素直なのか、どうしようもなくひねくれているか、どちらかなのでしょう。
ただ、脚本をそのまんま上演とは言っても、決して芸がない訳ではなく、演出や演技にはさまざまな工夫が施されています。特に、話しのテンポの良さは秀逸。真ん中に合いの手のようにセリフを入れたり、演技の小気味良さが光っていて、観ていてとても面白かったです。
ただ、演技そのものは良かったのですけど、ちょっと気になったのが、戯曲が古いということを差し引いても、所々セリフが浮いてるなと感じる部分があったこと。無理に古典にする必要はないかとは思いますが、作品が書かれた当時の時代性が少なからず反映した作品だっただけに、その当時の最低限の歴史的背景は把握する必要があったように感じますが、そこまで出来ていないように感じたのが残念です。簡単な言い間違いや、セリフを噛んだりするシーンが多かったのは、演技そのものが良かったことを考えると、稽古不足ではなく、セリフをきちんと自分の中で消化できていないことに原因があったように感じます。
セリフについてはちょっと気になる点があったのですが、そういった部分があったにも関わらず面白かったのは、演出や演技の頑張りの他に、戯曲の持つ時代を超越した普遍的な面白さがあったということが大きかったと思います。その点ではこの脚本を選んだというのは、とても目の付け所が良かったなと思います。特に、誰にも見えない幽霊が、金儲けの道具としてどんどん一人歩きしていく周囲の狂騒が、醜くもコミカルに描かれている様は、今の時代にも大いに通じるものがあります。シニカルなシーンの数々に、笑いながらも、現在の先物や株の取引を連想してしまい、今も昔も人間の考えることの本質に替わりはないと思い、笑いが引きつったり、その引きつったままの状態で色々なことを考えてしまいました。
前述したように所々にしっくりこない部分こそ残りましたが、全体としては見たら、良く出来ていて見応えのあった公演でした。どんなに少なく見積もっても、戯曲本来の持つ魅力はしっかりと引き出せていたと思います。