グリング「ヒトガタ」@THEATER/TOPS

(あらすじ)
雛人形の頭職人の妻が亡くなり通夜が執り行われた。通夜の合間に、その家の居間に出入りする人々―彼女の夫や義理の母親に、息子夫婦といった家族や、親類、隣人など手伝いに来た人達や、弔問に来た人々など・・・。
母親に先立たれて家事が何も出来ないことが不安な夫に、彼の事を頑なに嫌う息子。子供が出来たことを誰にも報告しないことに業を煮やす妻を始めとし、彼等のそれぞれが悩みを抱え、傷つき、傷つけられて生きている。
(感想)
葬儀や通夜というものは死者のためのものであるのと同時に、偲んだり、その人の死に何らかの折り合いをつけたり、人のよってはそれ以外の打算的な目的があったりするように、生きている人のためのものであるという側面もあるのだと思います。この作品はそんな通夜の裏側が舞台になっている作品で、舞台同様、そんな生きている人々の心の裏側を覗くような作品です。そんな彼等が次々と目まぐるしく出入りする前半は複雑に入り組んだ彼等の人間関係や抱えている問題が、所々コミカルな場面を入れながら丁寧に描かれています。登場人物達の組み合わせを巧みに入れ替えた会話を繰り返してゆくことによって、説明的なセリフをほとんど入れることなくパズルのように物語を組み立てていく手並みはとても鮮やかだとは思います。ただ、彼等の何気ないひとことだけで語られる部分があるので、確かに注意深く聞いていれば分かるのですが、後になって「実はこのセリフはこういう意味だったのか」ということに気付くシーンがありました。自分の読み解く力の欠如だと言われれば全くその通りなのですが、個人的にはもう少しテキストに親切さが欲しかったです。
ただ、複雑に入り組んだ物語が、いろいろな言葉を重ねる事により、角度を変えて少しずつ真相が見えてくる後半戦はとってもスリリングでした。たった一つの言葉で思い込みや先入観で人を疑ったり憎んでしまったり、その逆でほんの一言でお互いが救われたりすることもあったりするのを観ていると言葉の持つ重さというのを感じたりそれに関していろいろと考えたりしました。時には沈黙さえ痛切に語ってしまう場面もあるので厳密に言うと言葉ではなく、コミュニケーションなのかもしれません。
正直、それほど斬新ではなく、決して派手な作品でもないと思います。ただ、それでも観終わった後に、何かを「観た」という確かなものが残った作品でした。予定が厳しかったので、観に行こうか辞めようかギリギリまで悩んだのですが、行って本当に良かったです。