青年団リンク東京デスロック「unlock#1」@アトリエ春風舎

ダニエル・キイスの「アルジャーノンに花束を」にインスパイアされた作品ということでどんな作品になるのかと思っていたら、いきなり役者さん2人がキャッチボールをして、「アルジャーノン〜」についての話をしているだけ。その後、その会話をキーワードにgoogleWikipediaの世界をネットサーフィンするかのように「ことば」をキーにそれに関連した断片のような作品がこまぎれのようになって連なっていくかのように作品が進んでいきます。随所に盛り込まれていている細かなアイディアの数々と、YMOの音楽とが絶妙にマッチしている疾走感が心地いい作品です。個人的には、パソコンの販売員とお客とのやりとりを、最初は日本語でそのあと英語で演じて、そのギャップが面白かった作品が好きです。舞台の周りを囲むように座っている観客をパソコンに見立てた会話は、人間と機械との境界線とはという、SFでは良く取り上げられるメジャーなテーマも内包していて、面白いだけでなくいろいろと考えさせてくれます。
後半の電動ネジ巻きを持っていきなりスクリーンを作り出したり、そこに作品のタネ明かしの映像を流す仕掛けもとても鮮やかで面白かったです。Wikipediaで検索した結果を映し出したり、作品のネタに使われた池袋から劇場のある小竹向原までの映像を作ったり、バラバラで良く分からないものを1本の線でつなげたような爽快感があります。この辺はモダンアートやコンテンポラリーダンスにも通じる要素も含まれているように感じ、作・演出をしている多田淳之介さんの空間作りのセンスの良さをものすごく感じました。
一つ一つのアイディアを掘り下げれば、それだけでもっと大仕掛けの作品が出来るにも関わらず、あえてサラリとやってしまう所がとても贅沢だとは思いましたけど、一方で勿体なさも感じました。特に、この作品は繰り返しすことによって生じる、かぶさりやズレといったものが面白い公演だったのですけど、それが作品の持つスピード感を削ぐ結果になってしまったのが残念です。
仮にこの作品をしっかりとした劇場で上演されたら正直首をかしげていたと思いますけど、アトリエでの実験的な公演でやったからこそ、役者さんとの距離感の近さも感じられるいい作品に仕上がったと思います。