PEOPLE PURPLE「The old CLOKE」@東京芸術劇場小ホール

(あらすじ)
1870年代のイギリスのロンドン郊外にいる古いホテル。そこをたまたま立ち寄った作曲家ヘンリーと、彼を出迎えるそのホテルの支配人である、一人の老婆。
そのホテルのロビーで、ヘンリーは時を刻まなくなった大きな古時計を目にする。時が止まった状態のまま、なぜそこにあるのか疑問に感じた彼は、そのことを老婆に尋ねる。
その時彼女は、ある一人の男と、彼が生まれた時にホテルに来て、亡くなった時に止まってしまった時計との、ともに歩んだ長い人生について語り始めるのだった。
「大きなのっぽの古時計」の曲のエピソードに託して語られる、感動の物語。
(感想)
前回、4月に行った「ENDLESS TRIP」に感動してしまったので、今回の公演も観に行ったのですけど、結局今回も感動させらせてしまいました。
今回は知らない人はいないという曲をモチーフにした作品ですので、お爺さんが亡くなって時計が動かなくなるというクライマックスの部分はわかっているので、物語をそこまでどう膨らませて、それをどう終らせるかに作品の良し悪しが掛かってきます。
今回の公演では、主人公の男とホテルにある時計やピアノ、ソファー、箪笥、ランプに宿っている妖精と交流と、ホテルの支配人の長男として生まれたその男とその家族や従業員達とのふれあい、そして作曲家と老婆との時計にまつわる語らい、という3つのエピソードが時に交差しながら綴られています。最初、妖精が登場した時には、そのメルヘンチックな展開に、「いい年をしたおっさんが」といささか引き気味だった私だったのですけど、気が付いたら時間が経つのを忘れていました。前作の時も感じたのですけど、本当にさまざまな要素を詰め込んだボリューム感のあって楽しめるお芝居を作る劇団です。
作品自体も、そんなに目新しさや、斬新さは感じられないのですけど、今時の劇団には珍しい位の、いい意味での真っ直ぐさがあります。笑いも、感動させる場面も基本的には、関西弁を使っているという意外は、表現の仕方自体はものすごくストレートなのですけど、物語や演技が手を抜くことなくしっかりと練りこまれているので、チープにならずに、観ていて見ごたえがありました。
そして、今回の公演を語る上で、語ることができないのは音楽にまつわるモロモロのこと。テーマになっている曲ももちろんですけど、歌だけでなく、役者さんのピアノや楽器を実際に演奏するシーンなどが効果的に使われていて、このことも舞台を盛り上げるのに大きく貢献しています。惜しむらくは、折角のシーンなのに、本当に演奏しているのか途中まで分かりにくかった点で、少しだけ見せ方を工夫すれば、もっと劇的な効果が大きかったように感じます。その他に、バッハの遠い親戚を名乗るうさんくささ爆発の強烈なキャラクターにも、笑わしてもらいました。笑いの部分も基本的に、ボケと突っ込みが基本の関西系のコテコテでストレートな笑いなのですけど、芝居の流れの良さと、時折出てくる本筋とは関係のない強烈なキャラクターのお陰で、素直に笑うことができます。
細かい演技や設定の部分では若干気になった部分を感じましたけど、エンターテイメント性の高さだけではない奥深さも持った、幅広い層に受け入れられるいい公演だったと思います。次回公演は来年の1月だそうですけど、以前の自分のように、芝居を観たいけどどの劇団の公演を観たらいいか分からないという人には、特におススメの劇団です。間口は広いので、そうでない人も純粋に楽しめるかと思います。