光原百合「最後の願い」

暖かいタッチの文章と、鮮やかな謎解き、そして最後に訪れる時折ホロ苦さを感じさせてくれる結末。光原さんの過去の作品の中にはそういった共通したイメージとも作風ともいえるものがありますが、この作品もそういった部分は踏襲されています。
そして、この作品はある劇団の公演のメンバーを集め、公演を立ち上げていくまでのプロセスを題材にした連作ミステリーです。最近、演劇にちょっとはまっている自分としては、小劇場で活躍する劇団の舞台裏の雰囲気ってこうなっているのかという部分では(必ずしも全ての劇団がそうではないでしょうけど)、とても興味深く読ませてもらいました。登場人物も、一癖ある魅力的なキャラクターがそろっていると思います。
ただ、ミステリーとして見た場合、光原さんの過去の作品と比較した場合、いま一つピンとこなかったです。8つの短編からなり、最後に一つの大きな真相が見えてくるという作り方になっていて、その部分については文句なしでうまいと思います。ただ、そこまでの短編のうち3つ位は途中で何となくですけど仕掛けが分かってしまいましたし、動機についての謎を探る短編では、確かに見事だけど、そんな作者の思惑どおりには人間って動かないでしょうと、言いたくなってしまったりしてしまいました。
自分が読者としてひねくれているのかも知れませんけど、最後のパート意外は、ミステリーとしてはいま一つだと思いながらも、登場人物達のキャラクター像や、劇団の舞台裏を描いた小説としては楽しく読ませてもらいました。
isbn:4334924522:detail