宮沢章夫「青空の方法」

劇作家という私から見たら「普通でない」仕事をしている人の書いたエッセイにしては、そこで取り上げられている題材は、驚くくらい私達と大きく変わらない日常のできごとについてのことです。ただ、これが日常以外のことを取り上げた並みのエッセイと比較しても遥かに面白いのです。なぜ面白いのか自分なりに考えてみると、作者の知識の深さや、ものの見方の面白さというのは確かにあるかもしれません。ただ、それ以上に大きいのがこの人の「立ち止まらない」ことの面白さなんじゃないか、って思います。普通でしたら「当たり前」とか「言うまでもない」といった形で処理されてしまい、そこから考えることをやめてしまう物事。宮沢さんの場合、まるでそこがスタート地点だといわんばかりに、そこから思考の歩みを止めようとはせず、時には「どう見てもこりゃあ暴走だろう」といいたくなる所まで到達してしてしまいます。そんな所が、私のように常識で立ち止まっている人間にとってはものすごく新鮮かつ痛快なのだろうと思います。
例えば、エッセイの中に小便小僧について書いているものがあるのですけど、小便小僧がジュリアン君という名前だということ、私たちにとってはそれだけでも十分に面白いのですけど、宮沢さんにとってはその先の「そのジュリアン君を見て何を考えたらいいのか」といったことの方が重要なのです。
そんな宮沢さんの立ち止まらない面白さが詰まったエッセイを、爽快に楽しく読みながらも、「自分は常識や他人にあまりに頼りすぎて、本当の意味で自分でモノゴトを考えていないのではないか」ということについて、少し真剣に考えてしまいました。
ISBN:4022643285:DETAIL