伊坂幸太郎「終末のフール」

あと3年で地球に小惑星がぶつかって人類が滅亡してしまう。まるで映画の「ディープインパクト」みたいなシチュエーションになったとき、私達は残された時間をどうやって過ごすのだろうか?この小説は、そんな残された日々をとあるマンションで過ごす住民達と、彼等を取り巻く人たちの物語です。
「みんなが沈むのを眺めて、一番最初に死ぬつもりだ」
と言って、洪水に備えてマンションの屋上に櫓を作る父親。
「明日、死ぬとしたら生き方が変わるんですか?」
そう言って、いつものように淡々とサンドバッグにローキックとフックを打ち込み続けるキックボクサー
「我慢してれば大逆転は起きるんだよ」
学生時代いつもそう言っていた、サッカー部の元ゴールキーパーと休みの日に河川敷でサッカーに興じる彼らの仲間達...etc
この物語に登場する人たちはあと3年で世界が終るからといって、決してこの世の終わりを嘆いてヤケになっているわけではない。かといって力みかえって自分の力で世の中を何とかしてやろうと思っているわけでもありません。彼らは時には淡白だと思えるくらい、淡々と世界の終末を受け入れています。けど、人生そのものは決してあきらめていない。
以前読んだ伊坂さんのインタビュー(多分、何年か前の「このミス」だったと思いますけど)で、本多孝好さんのことを「やわらかいように見えて、実は硬質」と評していましたけど、実はそのことは伊坂さん自身にも当てはまる言葉なのではないか、「死神の精度」やこの作品を読んでいると、そう思えて仕方がありませんでした。ただ硬質ではあるけど、人々に対して向けるまなざしはどこか優しくて暖かい。だからこそ、この物語を読んでいるとなんか泣き笑いしたくなるような気持ちになるんだろうと思いました。
ISBN:4087748030:DETAIL