宮沢賢治「銀河鉄道の夜」

ものすごく久しぶりということにはなっていますが、宮沢賢治の作品を腰をすえて読んだのは、実質始めてといってもいい私です。実際に読んでみると今まで自分が抱いていたイメージと実際の内容とにかなりのギャップがあり、結構新鮮な発見がありました。特に、独特な言葉の使いまわしや、比喩表現や擬音語の使い方がとても面白く、頭の中で物語をビジュアルに想像するのが面白いです。おそらくそれは、私だけでなく賢治を読んだ多くの人が感じた事であり、それだからこそ多くの絵本や映像や舞台などで取り上げられ、彼らの創造力を喚起していくことになるのでしょう。
作品全体の傾向としてはピュアでメルヘンチックな物語なのでしょうけど、賢治の描く世界がそうであればあるほど厳しい現実との衝突とは避けられず、そのなかでどうやって真っ直ぐに生きていくのかという問題に直面せざるを得なかった部分があるのかなあ、そんな部分が作品に出ているのかなあ、というのが印象です。すなわち、現実の世界が過酷だったからこそ賢治には作品のなかの楽園が必要だったのではないしょうか。科学や宇宙に深い興味を抱きながらも、それを超越する神の存在を強く意識したり、「銀河鉄道の夜」のように、ファンタジーな世界を紡ぎだしながら、死を強く意識せずにはいられない作品があるというのはそういった理由からなのでしょう。
ISBN:4101092052:DETAIL