コヨーテ No8

結局、旅というのはどこに行ったのかよりも、そこで何をして、何を見たのか、ということが大切なのではないでしょうか。沢木耕太郎さんの「深夜特急」を読んでいると、そんな気持ちからか、旅の中や日常で、自分が今まで一体何を見てきたのだろうか、という焦燥感に駆られる時があります。作品の出来が素晴らしいというのももちろんありますけど、この本を読んだ後に私達をこれほどまでに旅にかりたてるもの、それは居ても経ってもいられなくなってしまうこの焦燥感なのではないだろうか、と今回の特集を読んでいて感じました。刊行された当時とは、旅の価値や性格、距離といったものが変わってしまった現代、私達をここまで旅に駆り立ててくれる作品というのは、沢木さん自身の手を以ってしても、残念ながらもう生まれる余地がないのではないでしょうか。一方で、そのことが、「深夜特急」が他の作品に取って代わられることなく、今後も世代を超えて読みつがれていくことの証明になっているのでは、と思うとなんとも言えず皮肉な話です。
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