沢木耕太郎「バーボン・ストリート」

スポーツ新聞の言葉の使い方、チャンドラーとハードボイルド、テレビや映画の話、パチンコとタバコ、植草甚一と古本屋の話等、「あえて強弁すれば、話の芽は、どれも呑み友達と酒を酌みかわしているうちにでてきた」(あとがきより)話題を十五編の作品にした、エッセー集です。
文学や映画を始めとした広範で深い教養を縦糸に、様々な人物と会って取材することによって得られる、人間を観察する深い眼を横糸にして紡がれた、洒脱で軽妙なエッセーは、面白いだけでなく知的好奇心を刺激してくれる上に、自分があまりにも当たり前のように考えもなく素通りしていた物事への認識を改めさせてくれます。特に、チャンドラーの作品に出てくる、フィリップ=マーロゥの年令が実は三十代中盤だったと言う事実や、そこから導き出される彼の従来と異なる見方等は、眼から鱗でした。小島武士さんの文中の挿絵もいい味を出していて、このエッセー集の雰囲気作りに大きく貢献しています。
沢木さんが「深夜特急」を代表とするノンフィクションライターとしてだけでなく、エッセイストとしても卓越していることを証明している作品です。実は、私も沢木さんのエッセーを今まで殆んど読んだことがなかったのですが、今作を読んで、著者のことがますますファンになりました。
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