保阪正康「陸軍良識派の研究」

太平洋戦争について語る時、日本を戦争に駆り立てた諸悪の根源とみなされるのが、当時の陸軍です。本書は従来の陸軍の軍人論とは一線を画し、その反理性的、反知性的な体質の中でも、論理的かつ客観的視野をそなえ、高潔な人格を持った、軍人達の活躍の系譜について書かれた本です。彼らを描くことにより、組織と個人の問題についても踏み込んで語っています。すなわち、一見、反理性、反知性な体質の組織でも、個人としてみた場合、尊敬に値する人物が少なからずいたこと。そして、そんな彼らがいたにも関わらず、彼らの存在がエスカレートする陸軍の無軌道さにブレーキを掛けれなかった、個人の限界と組織の欠陥が存在していた、ということです。
正直なところ、良識派の軍人の選定の基準については、人によって様々な異論が出るかと思います。しかし、保坂さんの膨大な史料と取材量に裏打ちされた知識と、太平洋戦争を語るときに見られる、優れたバランス感覚は流石だと思います。少なくても、現時点では、本書の作者の保坂さんは、太平洋戦争について語る良識派の人物であるといえるでしょう。
ISBN:4769824505:DETAIL