伊坂幸太郎「ラッシュライフ」

内容とは全く関係ないのですが、まずは個人的な話をひとつ。
この本の古本をずっと探していたのですが、探しているうちに、先に文庫化されてしまいました。喜んで買ったら、その二日後にハードカバーの本を見つけました。喜んでいいのか、悲しんでいいのか、自分でもよく分かりません。
と、言うわけで本題へ
金で買えないものはないと思っている画商に振り回される女性画家・志奈子。自分の仕事に独特、かつ変なポリシーを持つ、泥棒の黒沢。新興宗教の幹部に振り回される、画家志望の信者・河原崎。かなり頼りない、自分の不倫相手の妻を殺す計画を練る精神科医の京子。再就職の面接に落ち続ける失業者の豊田。一見すると、何の接点を持たない五つの視点が、個性的な人々や、モノや、犬を巻き込みつつ意外なところで結びつく。それらの視点が、エッシャーの騙し絵のように一つの作品を紡ぐ時、意外な一枚の絵のような真相が見えてくる、その真相とは。
語り口が軽快で、登場人物も個性的で面白く、各ストーリーの切り替えが抜群に上手いので、結構さらりと読めてしまいました。けど、少し読み返してみますと、ややくどい部分もありますが、ストーリーの組み立ての緻密さには驚かされます。一見何気ない引用や、小道具がストーリー全体の思わぬ伏線になっているうえに、さらに面白いのが、この作品が「オーデュボンの祈り (新潮文庫)」や「重力ピエロ」と言った氏の他の作品と絶妙にクロスオーバーしていて、本来であれば全く独立した物語が、「伊坂ワールド」ともいえる独特とも世界を形成していることです。どの作品も面白いので、近年,コンスタントに作品を出している作家さんの中では、他の人におすすめしたい人の一人です。
isbn:4101250227:detail