西島大介「凹村戦争」

山に阻まれ、携帯電話もラジオの電波も届かない。新聞が届くのも半月後で、テレビはNHKしか映さない。おまけに住民の苗字の頭文字には全て「凹」がつくという変な村、凹村。そこに住む中学三年で受験生の凹沢アルは、そんな何も起こらない平穏な村で、同級生達と平和に暮らしていた。そんな、日常に飽き飽きしてうんざりとしていたアルだったが、ある日、まるで彼の望みを聞き入れるかのように、宇宙から「物体」が落下して来るのだった。
著者は、雑誌とか、挿絵とかで以前からそれなりに見かけていた人なのですが、本として刊行されたのが本作が始めてだとは知りませんでした。この人の、絵の独特の間というか、適度な空間というものが、個人的には結構好きです。
変わらないと思っていた、日常が、思いのほか脆くてテキトーで、かといっていざそれを、自分で変えようと思っても、自分の無力さというものを思い知らされるだけ、という時って、青春時代には、程度の差こそあれあるものだと思います。この物語の主人公のアルって、確かにどうしようもない馬鹿な少年です。凹村で何が起こっているかもよくわからずに、ただ、自分がこうあって欲しいという願望のもと、やみくもに行動しているだけ。
けど、ふと思うのですが、テキトーだけど堅固な世界を壊せるものというのは、アルの同級生の凹伴のような、分別や常識によってではなくて、アルのような向こう見ずなまでにひたむきで純粋な行動力なのではないでしょうか。そう考えると、この漫画って、設定はSFだけど、実はジュブナイルな青春物語なのではないだろうか。
そうだとしたら、メインターゲットに対して、少し値段が高くないでしょうか。Jコレクションで刊行してしまった、早川書房さん。
isbn:4152085568:detail